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研究テーマ紹介8:超短パルスレーザーの小話

こんにちは!武者研の齋藤です!

私は超短パルスレーザーの開発に携わっていたので、少々その話をしたいと思います。


光や電波を含めた電磁波には、大きく分けて(1)連続波(Continuous Wave, CW)(2)パルス波があります。前者はsinやcosで表されるような、山と谷が周期を持って連続的に繰り返すような波です。一方で後者は、瞬間的にだけ大きさを持った波が、一定の間隔で現れるような波です。心臓の鼓動のようなイメージですね。この2つの分類は、当然ですがレーザーに対しても成り立ちます。連続波のレーザーはCWレーザーと呼ばれます。一般的にイメージされる「レーザー」に該当するものはCWレーザーだと思います。パルス波のレーザーはパルスレーザーと呼ばれます。この記事ではパルスレーザーが主役になります。


実はパルスレーザーの中にも、いくつかの種類があります。ここでは、パルスの時間的な幅によって二つに分類することを考えます。


まず一つが、比較的時間幅の長いパルスレーザーです。これを実現することはとても簡単で、極端な話、CWレーザーの出力を周期的に手で遮ってもパルスレーザーになったとも言えるでしょう。人間の手で遮ってもせいぜい実現可能なパルス幅としては数秒程度でしょう。もっと時間幅の短いパルスが欲しければCWレーザーを動作させるために流している電流に変化を加えます。簡単なケースでは、CWレーザーから出てくるレーザー光の強さは流している電流値によって決定されます。そのため、電流値をオンオフできればCWレーザーをパルスレーザーにすることができます。電流値を制御することは人間の手による操作よりはるかに高速に行うことができ、ミリ秒からナノ秒程度の領域であれば容易に実現が可能です。汎用機器を用いてパルスを発生できるので、高校や大学での学生実験にもこうしたパルスレーザーが用いられます。しかし、もっと時間的に短いパルスを生成したいときにはどうしたらよいのでしょうか。


ここでようやく本題でもある二つ目の分類、超短パルスレーザーにたどり着きます。先ほど紹介したパルスレーザーはナノ秒程度の時間幅でしたが、超短パルスレーザーはピコ秒からフェムト秒程度の時間幅を持ったパルスを出力します。一般的なオシロスコープの応答可能速度はナノ秒程度なので、超短パルスレーザーにもなると電気的にその実態を測定することは難しいということがお分かりいただけるかと思います。そして当然ですが、電気的に測定することが困難であるということは、先述したように電流を制御することで電気的に発生させることもできないということでもあります。ではこの超短パルスレーザーはどのように実現されるのでしょうか。

この答えとなるのが「モード同期」という概念です。通常のCWレーザーは単色性があるため、一つの色の成分のみで構成されています(波を式で表した時のsinωtのωが1種類だけ)。一方で、超短パルスレーザーでは複数の色の成分がある条件の下で時間的に重なり合うような構造となっています。ここで言うある条件とは、「sin波の特定の山の部分で複数の色の成分の波が重なり合う」ことです。フーリエ級数によってパルス波形を作り出すことをイメージしてもらえればよいと思います。複数のCWレーザーの成分を同期させることで超短パルスが生成させるわけですね。


モード同期によって作られたパルスの時間幅は先述の通り非常に短く、それ故に物理的に大きな意義を持ちます。例として、超短パルスレーザーをカメラのストロボのように用いる実用方法を紹介します。物理の教科書にもよく登場することかと思いますが、フラッシュを焚いた瞬間だけカメラで撮影をすることで、物体の状態の変化を瞬間ごとに切り取って確認することができます。ここでどれだけ細かく切り取れるかはフラッシュの間隔をどれだけ短くできるかにかかってきます。そのため、電気的に作り出せないようなとても短い光パルス(=フラッシュ)を出力できる超短パルスレーザーを用いれば、これまで観測できなかった物質の化学変化の様子までもが測定できるようになるのです。


レーザー自体が物理や化学などの科学技術に対して寄与するところが非常に大きく、多くのノーベル賞受賞者を生むような技術です。その中でも、超短パルスレーザーは人間が作った電気機器では対応できないほど高速な現象を発生・観測することを可能にし、役立ってきました。


「どうやったらモード同期を起こせるのか知りたい」

「フェムト秒の短さで何ができるのかもっと知りたい」

「超短パルスレーザーを使って未知なことを計測してみたい」


そう思った方々には、ぜひとも光工学の道を歩んでほしいです。




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